企業に雇用されず、フリーランスとして働く方が増えています。今後も副業兼業の拡大によって、こうした働き方は増加していくことになるでしょう。
これに対応するため、4月28日にフリーランス新法案(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律案)が可決・成立されました。フリーランスが不当な不利益を受けることがなく、安定的に働くことができる環境を整えることが求められています。
施行期日は、「公布の日から起算して1年6か月を超えない範囲内において政令で定める日」。今後の動向も注視し対応していきましょう。
対象になるフリーランスとは
この法律が対象としているのは、フリーランスの中でも企業相手にBtoBで仕事をしている従業員を使用しない事業者(特定受託事業者)の取引です。発注者(特定業務委託事業者)に対してさまざまな義務や禁止行為を課す内容の法律であるため、取引先が個人消費者である場合は、この法律は適用されません。
個人事業主はもちろん、法人成りしているフリーランスも含まれます。法人成りしているフリーランスと、法律を遵守すべき立場となる発注企業をどう区別するのかといえば、従業員の有無によります。
つまり、他者を雇わず1人で仕事をしている事業者は特定受託事業者(フリーランス)、他者を継続的に雇って仕事をしている事業者は特定業務委託事業者(法人であっても個人事業主であっても)となります。
例えば、繁忙期にヘルプでアシスタントを雇うなど、雇用保険の適用対象とならないような短時間・短期間の一時的雇用であれば、特定受託事業者とみなされます。
保護される事業者 | 従業員を雇用していない個人事業主、法人→フリーランス <特定受託事業者> |
規制される事業者 | 従業員を雇用している個人事業主、法人 <特定業務委託事業者> |
対象になる取引
特定受託事業者の給付の内容その他の事項の明示等
発注者は、特定受託事業者(フリーランス)に対し業務を委託した場合、フリーランスの給付の内容、報酬の額等を明示しなければなりません。明示する方法としては、書面又は電磁的方法によることとされています。
これは、フリーランス同士の取引でも必要です。
取引条件などの明示については、必ずしも契約書の締結は必要ではなく、発注する業務内容を双方が記録として参照できる形で残すことが求められます。
報酬の支払期日
発注者は、フリーランスが業務を完了・納品してから60日以内に報酬を支払う必要があります。支払日を「月末締めの翌々月末払い」のような形にしていると、意図せず60日を超えてしまうことがあるので注意しましょう。
また、元委託者→受託者(再委託者)→フリーランス(再受託者)というようにフリーランスに再委託する場合、再委託であることや元委託の一定の情報をフリーランスに明示したときは、元委託支払期日から起算して30日以内にフリーランスに対し報酬を支払う義務があります。
発注者の禁止事項
フリーランスが不利益を受けないように、以下のような禁止事項が定められます。ただし、禁止行為の対象となる取引は「(政令で定める期間以上の)継続的業務委託」に限られています。具体的な期間については施行日までに決定される予定です。
- フリーランスの責めに帰すべき事由なく給付の受領を拒否すること(成果物の受領拒否)
- フリーランスの責めに帰すべき事由なく報酬を減額すること(一方的な報酬減額)
- フリーランスの責めに帰すべき事由なく返品を行うこと(一方的な返品)
- 通常相場に比べ著しく低い報酬の額を不当に定めること(買いたたき)
- 正当な理由がなく自己の指定する物の購入・役務の利用を強制すること(押し売り)
- 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること(金銭・役務などの利益提供の強要)
- フリーランスの責めに帰すべき事由なく給付内容を変更させ、またはやり直させること(不当な変更、やり直しの強要)
募集情報の正確かつ最新な表示
クラウドソーシングのようなマッチングプラットフォームや掲示板、新聞その他の刊行物などにフリーランスの求人広告を出す時は、虚偽の表示や誤解を生じさせる表示をしてはならず、正確かつ最新の表示をしなければなりません。
出産・育児・介護への配慮やハラスメント対策などの就業環境整備
発注者は、フリーランスに対して長期間にわたって継続的な業務委託を行う場合には、妊娠・出産・育児・介護と両立しつつ業務に従事することができるよう、必要な配慮をしなければなりません。たとえば、納期やスケジュールの調整をしたり、リモートワークを可能にするなどの対応が挙げられます。長期間の業務委託ではない場合にも、同様の配慮をする努力義務を負います。
また、発注者はセクハラやマタハラ等の状況にならないよう、フリーランスからの相談に応じるなど、適切に対応するために必要な措置を講じる義務があります。たとえば、ハラスメントの相談窓口を使えるように周知することなどが挙げられます。相談したことなどを理由として、契約解除などの不利益取り扱いは当然認められません。
契約の中途解除等の予告
長期間にわたる継続的な業務委託の場合、発注者は、フリーランスとの契約を解除しようとする場合または契約不更新とする場合には、原則として少なくとも30日前までにその予告をしなければなりません。
また、発注者はフリーランスから契約解除の理由の開示を求められた場合には、遅滞なく開示しなければなりません。
トラブルになったら
フリーランスは、取引先より弱い立場にあることが多く、契約上のトラブルに巻き込まれやすい傾向があります。そのため、相談窓口として「フリーランス・トラブル110番」が設置されています。
当事者間で解決できなかったり、悪質性が高いケースなど、適切な省庁に申し出ることで、必要に応じて発注者に対する助言、指導、報告徴収・立ち入り検査、勧告、公表、命令が行われます。命令違反や検査拒否等に対しては、50万円以下の罰金もあります。
トラブルで悩んでいる場合には、相談窓口を利用するのも解決策の一つです。
まとめ
フリーランス新法はフリーランスにはメリットが大きいですが、下請法の対象となっていなかった中小事業者にとっては、負担やリスクが増加するため、発注控えが発生する可能性もあります。中小事業者は自社の事務負担を軽減するために、フリーランスではない事業者へ委託替えすることも考えられます。もともとフリーランスとの取引はトラブルになることも多いため、フリーランス新法施行後の動向が気になります。
また、フリーランス新法は成立はしましたが、詳細は決まっていない事項も多く、こちらも今後の動向を注視する必要があります。
いずれにしても、今後も契約を続けるのなら、フリーランスは給付の内容などの取引を書面等で明示する必要がありますし、発注者はハラスメント対策など必要な体制整備か必要になります。施行日前にできることから対応を検討していきましょう。
※この記事は、2023年6月1日時点の法令等に基づいて作成されています
「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」概要版パンフレットはこちら