労働基準法では、労働契約の締結時や更新時に、労働者に対して、賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならないと規定しています。雇用環境の変化を受け、この労働条件の明示に関するルールが、2024年4月より変更になります。
厚生労働省が公開しているフォーマットを使用して労働条件通知書を作成している場合は追加項目がありますので、対応が必要となります。
まずは、変更点を確認していきましょう。
改正の内容
2024年4月以降、明示される事項が新たに追加されます。
新たに追加される明示事項 | 明示のタイミング |
①就業の場所・従事すべき業務の変更の範囲 | ・すべての労働契約の締結時 ・有期労働契約の更新時 |
②更新上限の有無と更新「有」の場合の更新回数・通算契約期間の上限の内容 | ・有期労働契約の締結時 ・有期労働契約の更新時 |
③無期転換申込機会 ④無期転換後の労働条件の明示 | ・無期転換ルールに基づく無期転換申込権が発生する契約の更新時 |
就業の場所・従事すべき業務の変更の範囲
すべての労働契約締結時、及び有期労働契約の更新時の明示事項に、「就業場所・業務の変更の範囲」が追加されました。従来も、「就業の場所」「従事すべき業務の内容」に関しては絶対的明示事項でしたが、これは雇入れ直後の就業場所と業務内容についての記載とされていました。
2024年度からは、配置転換等によって想定される就業場所や従事する業務内容の変更の範囲を記載することになります。
就業の場所の「変更の範囲」とは、将来の配置転換などによって変わり得る就業場所・業務の内容を指しています。転勤などにより遠方へ配置転換する可能性がある場合は、変更先の範囲を記載します。変更の範囲を明記することが困難な場合、例えば全国各地に支店・営業所・店舗などがあるときなどは、「会社の定める就業場所」などと記載することが考えられます。
従事すべき業務の内容が限定されていない場合は、配置転換の可能性がある業務を記入します。配置転換について、会社のすべての業務に転換する可能性があるなら、その旨を記載するほか、「会社の指示する業務」などど記載することが考えられます。
記載例
就業の場所
(雇入れ直後)○○支店(所在地)
(変更の範囲)本社(所在地、□□支店(所在地)、△△支店(所在地)
従事すべき業務の内容
(雇入れ直後)窓口接客業務
(変更の範囲)法人営業、個人営業、営業事務、総務・経理業務
労働条件を明示するタイミングは、正社員、パート、アルバイトなどの雇用形態にかかわらず、「すべての労働者と労働契約を締結するとき」と「有期労働契約を更新するときごと」になります。
更新上限の有無と更新「有」の場合の更新回数・通算契約期間の上限の内容
更新上限の明示
2024年度より、有期労働契約の締結と契約更新のタイミングごとに「更新上限の有無」と「更新上限がある場合、その内容」の明示が必要になります。
このときの更新上限とは、有期労働契約の通算期間または更新回数の上限のことをいい、たとえば「通算契約期間2年まで」「契約更新の回数3回まで」と明示することになります。
更新上限を新設・短縮する際の説明
有期労働契約の締結と契約更新の際に、下記のいずれかの条件とする場合は、有期契約労働者に対して、有期労働契約の「更新上限を設ける理由」または「更新上限を短縮する理由」を、更新上限の新設・短縮をする前までに説明することが必要になります。
- 最初の契約締結より後に、契約上限を新たに定める場合
- 最初の契約締結の際に定めた契約上限を短縮する場合
説明する内容は、契約更新の上限を設けた理由、有期労働契約の更新回数を短縮する理由となります。つまり、後から決めた労働条件については、その背景をきちんと説明しなさいというものです。
無期転換申込機会の明示、無期転換後の労働条件の明示
有期労働契約に関わる労働契約では、無期転換ルールに基づく無期転換申込権が発生する契約の更新時に、「無期転換を申し込むことができる旨(無期転換申込機会)」及び「無期転換後の労働条件」を明示することとされます。
無期転換ルールとは
同一の使用者との間で、有期労働契約(契約社員など)が通算5年を超えて更新された場合、労働者からの申込により、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できる制度です。
有期契約労働者が使用者に対して無期転換の申込みをした場合は無期労働契約が成立することとなり、使用者はこの申込を断ることができません。
明示するタイミングは、無期転換ルールに基づく無期転換申込権が発生する契約の更新時です。具体的には次のようになります。
※厚生労働省「無期転換ルールについて」より
就業規則を確認できる場所や方法についての明示
厚生労働省のホームページ上で掲載している改正モデル労働条件通知書には、上記の労働条件明示追加事項の他、「就業規則を確認できる場所や方法」に関わる項目も追加されました。
就業規則の備付場所及び閲覧方法を労働条件通知書に明記し、労働者が必要なときに就業規則を確認できるよう配慮されることとなりました。今までは、就業規則があっても、その存在や内容を知る機会を与えていないということが散見されていましたが、今後は明示が必要になるため、就業規則などの適正な配置が求められます。
まとめ
労働契約は民法上、口頭でも成立しますが、書面交付は義務とされていますし、労働条件を正しく明示することにより、労使トラブルの防止にもつながります。
特に、有期契約労働者を多く雇用している場合は、契約更新のタイミングの確認と併せて、早めに労働条件通知書を見直し、説明できるよう準備が必要です。
今後、厚生労働省のホームページでQ&Aなどの詳細情報が出てくる予定ですので、その内容を踏まえて、実務上の対応を決定していきましょう。