会社は、常時使用する従業員に健康診断を実施することが、労働安全衛生法により義務付けられています。
労働安全衛生法により義務付けられた健康診断の費用については、会社に健康診断の実施が義務付けられている以上、当然に会社が負担すべきものとされています。
健康診断費用を会社負担にするためにはいくつか注意点があります。
健康診断の対象者
常時使用する従業員は会社の健康診断の対象です。常時使用する従業員には、アルバイトやパートなどの非正規労働者も含みます。
アルバイトやパートは?
アルバイトやパートなどの非正規労働者については、次のいずれの要件にも該当する方は健康診断の対象となります。
1.契約期間 | ・無期契約(契約期間の定めがない) ・契約期間が1年以上 ・契約更新して1年以上の契約になる |
2.労働時間 | 正社員の週所定労働時間の3/4以上 |
上記2に該当しなくても、1に該当していて、正社員の週所定労働時間の1/2以上働く場合は健康診断を実施することが望ましいとされています。
役員は?
労働者性のある役員については常時使用する従業員に該当します。労働者性がある役員とは、部長や支店長などを兼務している役員のことです。
兼務役員でない役員、例えば代表取締役や専務取締役などについては、労働安全衛生法上では常時使用する従業員には該当しません。
しかし、経営に悪影響が及ばないように、従業員と同様に受診してもらうことは問題ありません。
会社負担できる健康診断
健康診断費用を福利厚生費で計上するには、次の要件を満たす必要があります。
- 従業員と役員全員が受診できる
- 健康診断費用が世間相場程度
人間ドックや再検査費用は経費にできる?
人間ドック
人間ドックは、健康診断の法定項目以外も受診するため、その費用の全額を会社が負担する必要はありません。法定項目以外のものについては、給与等として課税することとなります。
再検査費用
再検査費用は、法律上の定めはありませんが、会社が負担することが望ましいです。会社は、安全配慮義務により再検査の受診ができるように配慮する必要があります。
会社が従業員の再検査の通知を確認せず、通常業務中に体調不良となり病気になれば、安全配慮義務違反となる可能性もあります。
会社が再検査費用を負担していれば、再検査の受診を促していることが確認できますので、会社が負担するほうが妥当といえるでしょう。
健康診断費用は給与課税が必要なことも
会社が従業員に金銭で支給する給料、賞与などのほか、経済的利益も通常、給与等として源泉徴収の対象となります。しかし、従業員の福利厚生のために会社が負担する費用については、従業員が受ける経済的利益の金額が著しく多額である場合や役員だけを対象に供与される場合を除いて、給与課税は不要とされています。
次の要件に該当すれば、人間ドックでも福利厚生費で計上することができ、給与課税の対象にもなりません。
- 希望者全員が検診を受けることができること
- 検診を受けた全ての者の費用を会社が負担すること
- 会社の負担費用が著しく多額でないこと
人間ドックは会社の規定を確認しよう
人間ドックなどの検診費用を従業員が立て替えて、後日会社で精算すれば、給与課税の対象にはならないことになります。しかし、従業員に金銭を支給する以上は、税務調査等で給与等とみられることがないよう、会社の規程等に基づき、検診を受けた全員を対象に会社が負担するなどを定め、検診費用を負担するようにすることが望ましいといえます。
例えば、検診費用の名目でも、渡切りで一定額を従業員に支給したり、会社の規程等でルールが定められておらず、対象者などがバラバラであったりする場合などでは、税務調査等で従業員に対する給与等と指摘されることも考えられますので注意が必要です。
領収書の名義を確認しよう
従業員による立替精算の方法では、会社が負担する人間ドックなどの検診費用であることを明確にするため、精算の際は、従業員から会社名義の領収書の提出を受けましょう。領収書の宛名が従業員の氏名であっても、その実態が、人間ドックなどの検診を受けた全員を対象に会社が負担するなどの検診費用であれば、基本的には給与等に当たりませんが、税務調査等でその内容が確認されることも考えられるので注意が必要です。
まとめ
健康診断の実施は会社の義務です。費用についても法律で規定されている部分は全額会社負担となります。
せっかく健康診断を実施しても、やりっぱなしでは安全配慮義務違反となってしまいます。健康診断結果報告書が届いたら、まずは再検査項目がないか確認し、証拠が残る方法で従業員に再検査を促しましょう。
従業員の健康維持は会社を継続的に経営していくためにもとても重要といえます。