いよいよ、不動産を相続したときの登記手続きがこの4月1日より、義務化されました。社会問題にもなっていますが、空き家などが長年放置され、所有者不明の状態になるのを防ぐのが目的です。期限までに登記手続きをしないと過料の罰則もあるので注意が必要です。司法書士に依頼しないでも、自分で申請することも可能なので忘れずに対応したいところです。
あわせて不動産の所有者の住所が変わった場合の登記義務も、2026年4月から義務化される予定です。
相続登記の申請義務
相続(遺言を含みます)により不動産の所有権を取得した相続人は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をすることが義務付けられました。
また、申請期限内に相続登記ができないときのために、相続人申告登記ができるようになりました。
相続登記の申請義務化の施行日は2024年4月1日ですが、施行日より前に開始した相続によって不動産を取得した場合であっても、相続登記をしていない場合には、相続登記の申請義務化の対象となります。この場合、2027年3月31日まで(不動産を相続で取得したことを知った日が2024年4月以降の場合は、その日から3年以内)に相続登記をする必要があるので注意が必要です。
名義人の住所変更についても、2026年4月以降は、2年以内の登記が義務になります。
いずれの登記も、登録免許税(相続の場合は原則として固定資産税評価額の0.4%)などの実費が必要です。住所変更の場合は、登録免許税が土地と建物それぞれ1物件につき1,000円です。
申請義務違反と過料
正当な理由がないのに相続登記の申請義務を怠ったときは、10万円以下の過料の適用対象となります。名義人の住所変更についても、2026年4月以降は正当な理由なく怠れば5万円以下の過料となります。
登記官が申請義務違反の事実を把握したからといって、すぐに過料されるわけではなく、まずは催告され、それに応じて申請をすれば、過料通知は行われません。
催告されても正当な理由がなく申請をしない場合に限り、過料となります。
※法務省HP「相続登記の申請義務化について」より
過料されない正当な理由とは
登記官が裁判所に過料通知を行うのは、相続登記の申請義務に違反した人に対して、相当の期間を定めて相続登記の申請をすべき旨を催告したにもかかわらず、「正当な理由」なく、その期間内にその申請がされないときに限られています。
相続登記の申請義務の履行期間内において、次のような事情が認められる場合には、一般に「正当な理由」があると認められます。
- 相続人が極めて多数に上り、戸籍謄本等の必要な資料の収集や他の相続人の把握に多くの時間を要するとき
- 遺言の有効性や遺産の範囲等が争われているため、誰が不動産を相続するのか明らかにならないとき
- 相続登記申請義務を負う者自身に重病等の事情があるとき
- 続登記申請義務を負う者が配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律に規定する被害者等であり、その生命・心身に危害が及ぶおそれがある状態にあって避難を余儀なくされているとき
- 相続登記申請義務を負う者が経済的に困窮しているために、登記の申請を行うために要する費用を負担する能力がない場合
上記に該当しなくても、事情を総合的に考慮して「正当な理由」として認められるか判断されるようです。
相続人申告登記とは
不動産の相続登記は2024年4月1日から義務化されるため、相続人は相続により不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請しければなりません。正当な理由なく期限内に相続登記をしなかった場合は、申請義務違反とされ、過料が課されるかもしれません。遺産分割協議で相続人間で意見がまとまらず、3年の期限内に遺産分割協議を成立させることが難しいことも考えられます。
このような場合は、相続人申告登記を行うことで申請義務違反とされず、過料がかからないようになります。
相続人申告登記をしたほうがよいケース
相続人申告登記の際には、戸籍等を取得するための費用はかかりますが、登録免許税などの手数料はかかりません。
相続人申告登記をすることにより、自分だけ申請義務を免れることができますので、次のようなケースなら検討するとよいでしょう。
遺産分割協議がまとまらないとき
相続人申告登記は各相続人が単独で行うことができます。
相続登記する際、遺産分割協議がまとまらないようなら、いったん相続人全員の共有状態にする必要があるため、法定相続人全員が共同して申請しなければなりません。
相続人申告登記なら、各相続人が単独で手続きできますし、3年以内に行えば申請義務違反とならないため、過料を避けることができます。
相続人が多数で相続人の調査に時間がかかるとき
相続登記が長年されていなかったことなどにより、登記しようにも相続人が多数いることが判明することもあります。相続人の調査をして確認がてきても、相続人と連絡がつかないことも考えられます。
亡くなった不動産名義人の相続人とわかったときに、先に相続人申告登記をしておくと、申告義務違反とならないため、過料を避けることができます。
相続人申告登記のデメリット
相続人申告登記だけでは、相続した不動産を売却したり、抵当権の設定をしたりすることはできません。
また、遺産分割協議がまとまらないために相続人申告登記を行っても、遺産分割協議まとまったときには、遺産分割協議により不動産を取得する相続人が、遺産分割成立の日から3年以内に相続登記をしなければなりません。
相続人申告登記をすると、登記事項証明書(登記簿謄本)に申告した相続人の住所、氏名が記録されます。登記事項証明書は法務局で誰でも取得することができますので、売却できないのに不動産業者から営業の連絡があることも考えられます。
まとめ
相続登記がされていないことなどによる全国の所有者不明土地は九州の大きさに匹敵するともいわれています。遺産分割がされず、相続が繰り返されると、その土地の共有者がねずみ算式に増加していってしまいます。
今までは相続登記が義務でなく、申請しなくても不利益がなかったため、放置されるケースもありました。もしかしたら今後、遺産分割協議をしたときには知らなかった不動産がでてくるかもしれません。その場合でも、不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記をする必要があります。
相続人申告登記をしても、いずれは相続登記が必要になり二度手間になることもありますので、まずは期限内に相続登記をすることを目指し、どうしても期限内に相続登記ができない場合には、相続人申告登記を申請することを検討するとよいでしょう。